名器の音で、木を育てる――乾燥工程から始めるギターの音づくり:第2回 名器の音を、乾燥室へ――理想の響きで木材を育てられないか

木材を音で揺らしながら乾燥させるなら、何の音を聞かせるのか。私なら、これから作りたいギターの、理想となる名器の音を選びたいと思います。

単に材料を変化させるだけではなく、その名器に感じる魅力へ近づく方向に、木材を育てられないでしょうか。深い低音、歯切れのよい立ち上がり、ふくよかな和音。そのような音が木材へ届く乾燥工程を、私は考えています。

無料部分では、名器の音を乾燥中の刺激として使う提案を説明します。有料部分では、「音を与えること」と「音が似てくること」の間にある関係を整理します。名器の音を手放さず、提案の意味を明確にすることが、本稿の狙いです。

1.どうせ聞かせるなら、憧れの音を

この章では、乾燥中に与える音を、理想の名器から選ぶ理由を述べます。

ギターを作るとき、「こんな音を出したい」と思う一本があるでしょう。低音の支えが好きなのか、単音の輪郭が好きなのか、コードを弾いたときのまとまりが好きなのか。その好みには、これから作る楽器に望むものが含まれています。

ならば、その音を、木材の乾燥工程でも使ってみたい。私の提案は、この素直な発想にあります。理想の楽器を聴いて設計を考えることに加えて、その音を材料にも届かせる。製作者の耳に響いている音を、製作前の板にも関わらせるのです。

ここで期待しているのは、どんな音でも同じように木材が変わることから、さらに一歩進むことです。与える音によって変化の方向が異なり、理想の名器の音を使うことに意味が生まれるか。その関係が成立するなら、音源の選択も材料づくりの一部になります。

2.名器の音には、時間の中の変化があります

この章では、名器の演奏音を、乾燥中に与える刺激として捉えます。

ギターの音は、一つの周波数(1秒間の振動回数)だけでできていません。基音(音の高さの基準となる成分)と倍音(基音に関連する高い成分)などの高次音が重なり、弾いた瞬間から余韻まで、それぞれの強さが変化します。ピッキングとストロークでは、木材へ届く音の動きも異なるでしょう。

名器の録音を再生する場合、その時間的な変化を含んだ音が乾燥中の木材へ届きます。短く立ち上がる音、長く続く響き、複数の弦が重なる和音。私は、そのような刺激の違いに、材料の変化の違いが対応する余地はないかと考えています。

名器の音を使う意味は、名器という名前だけにはありません。そこから実際に生まれる音を、乾燥工程の刺激にすることです。どの演奏を、どの音量で、どのように聞かせるかも、提案の内容に含まれてきます。

名器の音は、刺激としての特徴を持っています。では、その特徴が、乾燥後の木材と完成音へどうつながるのでしょうか。